| ラブリバ♂⇔♀ ♀編 |
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| 第一話 |
さっきから、何度も目の前がかすむ。
涙で瞳がくもっているからかもしれないし、ここ一週間くらいろくに食べてないからフラついているせいかもしれない。
それか、最近眠れないから、お医者さんにもらった睡眠薬が、効きすぎなのかもしれない。頭がぼうっとしてる。
お日様が眩しくて、立っているのが、つらい……。
「……かのん、かのん出番だよ!」
隣の風子が腕をこづいてくれたから、ハッとして、慌てて飛び出した。
バルコニーの下には、黒山の人だかり……ってほどでもないか。今日は、少なめかも。それでもアキバの電器ショップの2階に張り出しているステージ下の広場を埋めるくらいには人が、集まってくれている。
「こんにちは〜!」
と呼びかけて手を振ると、
「オオー!」
といううなり声と共に、手を振り返してくる、ファンのみんな。
「ペリエAのかのんです♪ 今日は、寒い中、来てくれて、みんな、どうもありがとぉ〜ッ!」
ムリヤリ笑ったら、心にピキンとヒビが入ったみたいに痛みが走った。ちっとも楽しくないのに、今日もいっぱいニッコリしなくちゃなんない。
私、なんでアイドルなんて、やってるんだろ?
頭の中は、後悔でいっぱいだった。
昔から歌うのも踊るのも好きだったから、それを仕事にできたら素敵かもって、試しにオーディションを受けたのが、4年前。
なぜだかオーディションに受かって、風子と『ペリエA』というユニットを結成して、超メジャーではないけど、それなりに売れて、それなりに楽しくて……。
でも、大切なものを、なくしてきたと思う。
まず、プライバシーがないし。どこに行っても、誰かがめざとく、
「あッ、かのんちゃん!」
と見つけてしまう。
この間は彼とTDLにいる写真が、雑誌に載ってしまった。それがきっかけで、彼にフられてしまった。
彼、宇多桐翔は、イケメン俳優で、私は彼がすごく好きで、だから結婚引退することを夢見てたのに。それで子どもを出産したら、ママドルとしてカムバックすることまで妄想してたのに……。
「ごめん! 事務所から交際禁止食らっちゃった」
って、あっさり切られてしまった。
なんで?
私より事務所が大事だったの?
事務所やめて愛を貫いた芸能人だっているんだよ? このくらいであきらめないでよ! と心の中は罵声でいっぱいになった。
いっそ結婚しちゃう? って誘ったけれど、
「まだ早すぎるよ」
って逃げられた。
「俺、これから海外進出したいし、結婚なんて考えてらんない。かのんはかのんで、アイドル、頑張れよ」
いくらすがっても、やり直そうってせがんでも、Bカップの美乳の谷間をチラ見させても、翔の気持ちは変わらなかった。
私は、ひとりぼっちになってしまった……。
……こんなのイヤ!
翔がいない毎日なんて、考えられない!
もう、永遠に、笑えない……。
目の前がまた、ぼうっとかすんだ。
ファン達が、私を見ているのに、もう、笑えない。私なんて、アイドルに向いてない。泣きたい。もう、終わりにしたい。
普通のお嫁さんになりたいな……。
ハワイじゃなくて軽井沢でいいから、教会で真っ白なウエディングドレスが着られればそれでいいから……。
そして、誰にもジロジロ見られることもない、平凡で幸せな奥さんになりたい……。
……でも、結婚してくれる相手なんて、今は、いない。誰も、いない。逃げられない。
ステージでは、もう、曲のイントロが流れ出している。春らしい明るい歌を、どんな顔して歌えばいいのか、わかんないよ。
いけない、歌い出さなくちゃ!
でも歌いたくない。
笑わなきゃ。
でも笑いたくない。
頑張らなきゃ。
でも頑張りたくない。
すべてを放り出して、
消 え た い
意識がかすんでいくのに、エネルギーを振り絞ってマイクを握る。
「最後の曲『愛アプリ☆キッス』を聴いてください。それではみなさん、またお会いしま……」
ここまで言って、彼の名前を思い出して、うるっときてしまう。
「……しょぉぉぉおお〜ッ!!!!」
叫んだら、私のカラダはぐらっ、と傾いた。バルコニーに慌てて掴まった……つもりだったのに、手が滑って、全身、真っさかさま!
落ちていく。
普通、アイドルなんだし、ここはキャー!とか叫ぶべきなのかもしれないけど、私は叫ばなかった。恐くなかった。
これで、
なにもかも
忘れられるかな……?
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